李鳳來さんを思う
骨董の世界はときに雑多で、思惑が交錯する場でもありますが、李鳳來さんはその中にあって、つねに澄んだまなざしと誠実な人柄を貫いておられます。
第一章は、ご自身の前半生を綴られたものでした。
李さんのお父様は、民族運動のリーダーとして民族の解放に身を捧げた方ですが、その歩みはご家族にとって決して穏やかなものではなかったことが伝わってきます。
李さんご自身もまた、幼少期から安住とはほど遠い、波乱に満ちた生活を強いられてきたのだと知り、言葉を失いました。
本題である「柳宗悦を考える」に入ると、その洞察の深さと言葉の重みに、ただただ感服し、何度も「なるほど」と呟きながら頁をめくっていました。
第一章から第二章にかけて拝読するうちに、私はどうしても、李さんのお父様と柳、そしてそれぞれの運動――民族運動と民藝運動――の間に、通底するものを感じずにはいられませんでした。
李さんがそうした出自を持っておられるからこそ、多くの人にとって掴みがたい柳の「本心」に深く共鳴できるのではないか――そんな思いが、胸をよぎりました。
そして最後に、並木幸男さんの花に触れられた李さんのまなざしと、その優しさに満ちた一文に、強く心を打たれました。
本を閉じたとき、思わず「ありがとう」と、静かに手を合わせていました。
著者|李鳳來 Lee Bong Rae
古美術商。1947年生れ。1972年、東京南青山に、朝鮮の古美術を扱う「梨洞」を開店。著書に『李朝を巡る心』(新潮社青花の会)。
目次|
Lの1/2
柳宗悦を考える
素人の花
書評|
本書中「Lの1/2」は、李さんの万感の思いを吐露した遺言書のようで、胸が摑まれ、言葉を喪いました。(川瀬敏郎/花人)
柳宗悦を考える|李鳳來
著者|李鳳來
発行|2025年7月25日/新潮社青花の会
A5判/上製本/84頁
